大判例

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名古屋高等裁判所 昭和24年(ナ)1号 判決

原告 中川清 外一名

被告 石川県選挙管理委員会

一、主  文

原告等の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、請求の趣旨

原告等は、被告委員会が昭和二十四年三月五日付をもつてした「昭和二十三年十一月三十日施行の石川縣羽咋郡志雄町農業調整委員会委員の選挙に際しその選挙会において当選人と決定せられた田村庄藏の当選はこれを無効とする」との旨の裁決はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求めた。

三、事  実

原告等は、昭和二十三年十一月三十日施行された石川縣羽咋郡志雄町農業調整委員会委員の選挙における選挙人であるが同選挙に際し訴外田村庄藏および池田正雄は各六十九票の得票で同数となつたので選挙会において選挙長がくじで当選人を定めることとなり、その結果田村庄藏が当選、池田正雄が次点(落選)ときまつた。ところが池田派に属する前多永二外五十余名は同年十二月四日右当選の効力に関し志雄町選挙管理委員会に対し異議の申立をしたが同委員会は同月十四日右異議申立を理由なしとして却下した。そこで同人等はさらに同月二十四日被告委員会へ訴願したところ被告委員会は何等実状を調査せず、無効投票の点檢もしないで右訴願を容認し昭和二十四年三月五日付をもつて前記のとおり裁決をした。

しかれども右裁決には左のような違法がある。すなわち本件選挙の投票中「イチダマサヲ」と記載した一票と「他田正雄」と記載した一票は当初選挙会においては共に無効と決したにかかわらず、被告委員会はこの二票を池田正雄の有効得票と判断して前記得票(六十九票)に加算し同人の得票を七十一票とした。しかし元來農業調整委員会委員の選挙は他の多くの選挙と異り立候補制を採用していないから右二票を單なる誤字として池田正雄の有効得票とすることは不当も甚しいといわねばならない。

そればかりでなく無効投票中、田村庄藏の有効得票と認めるべき票が数票存在する。よつて田村庄藏の得票は池田正雄の得票より多数となるか少くとも同数となり田村庄藏は当選を失うべきいわれがない。しかるにその当選を無効とした被告委員会の裁決にはとうてい服することができないからその取消を求めるため本訴におよぶ次第である。原告等は被告提出の乙号各証の成立を認めた。

被告委員会は主文第一項同旨の判決を求め答弁として次のように述べた。

本件選挙において得票同数となつた田村庄藏および池田正雄の両名中くじで田村庄藏が当選人と決したこと、その当選の効力に関し原告等主張のような異議、訴願があつて、被告委員会はその主張の日その主張のとおりの裁決を與えたことは認める。そして本件選挙の投票中に原告等主張のような「イチダマサヲ」と記した一票と「他田正雄」と記した一票の存在することは事実であるがこの二票は被選挙人の何人を記載したかを確認しがたいものとして無効投票とすることは当を得ない措置であつて、これは当然池田正雄の有効得票中に算入すべきものと信ずる。けだし(1)「イチダマサヲ」「他田正雄」という氏名の者は被選挙人の中に実在しないのに対しこの二者と最も近似する「池田正雄」なる氏名の者が実在しているということ、(2)同人は右の問題となつている二票の外に六十九票の得票があるということ、(3)法律上立候補制を採つていない選挙においても事実上の立候補または推薦運動をともなうのが通例であり選挙人はほとんどその者に投票しているということ、以上の三点を基として考えると「池田正雄」は事実上立候補していたかまたは推薦されていた者であることうたがいの余地がなく從つて前記問題の二票も同人を指した票であつてその記載にあたつて單に「ケ」を「チ」と誤り「池」を「他」と誤つたにすぎないと認めるのが相当である。そしてこれこそ選挙人の意思を最もよく尊重するゆえんであるといわねばならない。

以上によつて被告委員会のした裁決には何等の違法がなく原告等の請求は排斥せらるべきものである。(立証省略)

四、理  由

本件選挙において田村庄藏および池田正雄は同数の得票(各六十九票)があつたのでくじによつて田村庄藏が当選人と決定したこと、その当選の効力に関し原告等主張のような異議があり、その決定に対しさらに訴願があつたので被告委員会は昭和二十四年三月五日付をもつて、その主張のとおりの裁決を與えたことならびに本件選挙の投票中に原告等主張のような問題の二票が存することはすべて当事者間に爭のないところである。

ところで原告等は右の二票は被選挙人の何人を記載したかを確認しがたいものとして無効であると主張するに反し被告委員会はこれは池田正雄の有効得票に算入すべきものと主張するのであるからまずこの点につき判断する。

(1)  成立の爭のない乙第三、四号証によると、被選挙人の中に右二票に該当する人物は実在していないことが認められる。

(2)  右二票すなわち「イチダマサヲ」および「他田正雄」の票を被選挙人池田正雄の氏名に比較対照すると前者は「チ」の字を除き、後者は「他」の字を除き全く同音に読まれる。

(3)  右乙第三、四号証によると右の二票は他の被選挙人の氏名よりも右池田正雄の氏名に最も近似していることが認められる。

以上の三点を基準として考えると右の二票はいずれも被選挙人の何人を記載したかを確認しがたい無効投票とするよりは、その記載にあたつて單に「ケ」を「チ」と「池」を「他」と書きあやまつたにすぎないもの、すなわち被選挙人池田正雄をさして投票せられた同人の有効投票と認めるのを妥当とする。本件選挙は立候補制を採用していないというだけでは以上の認定を妨げるほどの事情とは考えられない。

次に原告等は本件無効投票中に田村庄藏の有効得票と認むべきものが数票あると主張するけれども何等の立証がないからこの事実を認めるに由がない。

以上説明したところによつて明らかなように池田正雄の得票は本件選挙会において決定した当時の六十九票に右の二票を加算すると七十一票となるに対し、田村庄藏の得票は前記のとおり六十九票であるから池田正雄が当選人となつて田村庄藏は次点(落選)となることは当然である。從つてさきに本件選挙会において決定した田村庄藏の当選は無効とならざるを得ないことまたいうをまたない。よつてそのように裁決した被告委員会の裁決には何等違法な点がないから原告等の本訴請求は失当として棄却すべきものである。

よつて民事訴訟法第八十九條第九十三條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中島奬 茶谷勇吉 浜田從六)

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